「できそこないの姫君たち」アジイチ

あらすじ

地味なオタク女子の黒川奏(かなで)は、人気者グループの藤白七姫(ななき)が男にフラれているところを偶然目撃。思わず慰めたのをきっかけに、七姫に気に入られてしまいます。

奏は七姫に勧められるまま、少しずつイメチェン。おしゃれやメイクを自然にこなすようになった奏を見て、七姫は自分でもよくわからないドキドキを感じ始めます。

一方、本来正反対の2人が急接近したことは、クラスの人間関係に少なからぬ波瀾を呼ぶことになります。

みどころ

地味女子×人気者という王道カップリングの百合漫画。おしゃれやメイクに関する言及が多く、懐かしの名作「Girlf Friends」を髣髴とさせる部分もあります。少しずつ変わっていく奏が活き活きと描かれています。

また、グループ間の対立という要素があるのもみどころ。奏と七姫は本来ならまったく違うタイプの人間。2人が仲良くなるにつれ、元いたグループとは距離が離れていきます。このあたりの関係修復も1つのみどころです。

奏×七姫

順調に距離を縮めていく奏と七姫。内気な奏を七姫が連れまわし、いろいろなことを教えていくという展開が前半のお約束です。このあたりは王道展開。奏は内心七姫に憧れていたらしく、強引な七姫に戸惑いつつも、基本的には喜んでいるようです。

一方七姫のほうは、当初は奏を可愛くイメチェンさせるのを楽しんでいたようですが、次第にそれだけではない強い気持ちを自覚し始めます。恋愛感情を抱いているのが早めに(少なくとも読者に)明示されるのは意外と七姫のほうだったり。

終盤は七姫からの告白があり、ついにハッピーエンドになるのかと思いきや、奏が意外な本心を語り始めます。七姫との関係を通して少しずつ変わっていた奏の、それでも変わらなかった芯の部分とは……?

地味な女の子×クラスの人気者はいまや王道路線の1つですが、本来あったはずのギャップを掘り下げた興味深い作風となっています。

泉×いろは

泉は七姫の以前からの友人の1人。七姫が人気者グループから外れたあとも七姫についてきた唯一の女の子です。

実は泉は七姫に恋愛感情を抱いており、中盤の修学旅行のエピソードでついに告白をすることになります。この前後では泉のキャラクター性が掘り下げられており、以前から女の子が好きだったことがうかがえます。

一方、いろはは奏の幼少時の友人。転校してきたことで、久しぶりに再会します。奏同様にオタクなのですが、人懐っこく社交的という意外と珍しいタイプ。奏を通して、七姫や泉ともすぐに仲良くなっていきます。

当初七姫いることが多かった泉ですが、失恋をきっかけにやや距離を置くようになります。そんな泉の姿を偶然ながら近くで見ることになったいろはは、やがて泉のことが気になるようになっていきます。このあたりは、泉にとっても救済になっているように思われます。

こうして、本編では惹かれ合っていることが示唆されている泉といろは。恋愛対象として意識するようになった明確な契機や、告白の瞬間は、番外編で描かれています。こちらは本編とは別の機会に発表されたのですが、現在ではそちらも含めて電子書籍化されています。気になる方はぜひそちらも読んでみてください。

英語版「Failed Princesses」

2020年より英語版がリリースされています。英題は「Failed Princesses」。百合漫画の翻訳最大手のSeven Seasからの発売です。

メイクやおしゃれに関する用語が多く登場するため、その方面の英語を勉強したい方におすすめとなっています。「可愛い」に関する訳し方も多彩で読んでいて楽しい英語版です。電子書籍化もされています。