作品概要
女性作家6人による、女子高生時代をテーマにした短編集。
参加している作家さんは、窪美澄さん、瀧羽麻子さん、吉野万理子さん、加藤千恵さん、彩瀬まるさん、柚木麻子さん。
テーマの縛りは、本の紹介文を見る限り「女子高生」という一点のみ。そのためかなり自由に書けたはずなのですが、いずれの作品も女の子同士の絆を主軸とした物語となっています。この頃は異性よりも同性とのつながりが重要だったという思いの表れなのかもしれません。
友情や姉妹愛をテーマにした作品が中心ですが、中には明確に女の子同士の恋愛感情を描いているものもあります。
収録作品のあらすじとみどころ
収録されている6作品のあらすじとみどころを簡単に紹介します。
窪美澄「リーエンビューゲル」
家庭にも学校にもどこが居場所の無さを感じている、透子とハルカ。気の合う親友同士の2人でも、お互いの抱える複雑な家庭環境のことだけは言いだせずにいました。
孤独な少女2人の友情を描いた作品。他に気を許せる相手を見つけられない2人が、決して優しくない現実の中で相手をより強く追い求めます。
瀧羽麻子「ぱりぱり」
主人公の姉は、十七歳でデビューした注目の若手詩人。だけど普段は自由奔放でだらしない変人。そんな姉といつも比較されてきた、常識人かつ平凡な主人公。姉に対する恨みとも愛情ともつかない複雑な感情が描かれます。
恋愛感情という感じではありませんが、姉妹の絆をテーマにした作品。姉に反発を覚えつつも、ついついその世話を焼いてしまう主人公はかなりシスコン気味のようにも思えます。姉も姉でなかなかの甘え上手のような気が。
吉野万理子「約束は今も届かなくて」
特に仲が良いわけではないけどなぜか気になる同級生・波多間さんへの想いを綴った作品。
本当に最初から最後まで特別仲良くも悪くもならないし、気になっていた理由もよくわからないまま。
正直、どう解釈していいかちょっと困る作品かもしれません。時系列順に淡々と経過を述べていく語り口や、主人公と作者の経歴の一致からは、一種の自叙伝のように感じられます。
加藤千恵「耳の中の水」
いつも一緒の仲良しグループな4人。しかし、そのうち1人の彼氏がグループ内の別の子とも付き合っているという噂が・・・。
存在が言及されるだけとはいえ、男性がストーリーに関係しています。この本の中ではちょっと異質な存在感です。しかしすべては噂どまりで真相は何もわからないまま終わるので、ちょっとスッキリしない感じ。
彩瀬まる「傘下の花」
引っ越してきたばかりの田舎町に馴染めないでいた慧子と、そんな慧子に親しげに話しかけてきてくれた八千代。八千代のおかげで慧子も次第に周囲に溶け込み、2人の距離もさらに近くに。そしてそれは、いつしか友達以上の関係に変わっていきます。
明確に女の子同士の恋愛を描いている作品の1つ。新しい環境に馴染もうと奮闘する主人公の青春物語から始まり、自然に親友との恋愛物語へと入っていきます。短編なりにきちんと起承転結しているのが好印象です。尺の都合か象徴的・断片的な作風の多いこの本の中で、しっかりした構成が際立っています。
学校でこっそりキスしたり、「女同士なら手つないでてもおかしくないでしょ」をやったりと、百合作品ではおなじみの定番シチュエーションも登場。クライマックスでは、なんと駆け落ちの約束まで・・・。恋愛ものとしても青春ものとしても楽しめる、とても読み応えのある作品です。
柚木麻子「終わりを待つ季節」
卒業もそう遠くない、高校3年の秋。何もなかった日々にどこか焦りを感じていた琴子は、中性的な魅力で人気の女の子・真澄から突然声をかけられます。真澄は琴子のことをかなり気に入っているらしく、今になって2人の距離は急接近するのですが…。
こちらも、女の子同士の恋愛を明確に描いている作品です。中高一貫のミッションスクールが舞台で、平凡な主人公が「王子様」的な女の子に見初められる展開はまさに王道。キスシーンがあり、それ以上の行為を意識した描写も登場します。
ただし、作者の柚木麻子さんの持ち味なのか毒のある描写もチラホラ。女の子同士の恋がメインテーマなのは間違いないのですが、ただ甘いばかりではありません。
彼女。 百合小説アンソロジー
「あのころの、」から10年経った2022年、同じ実業之日本社からなんと百合小説アンソロジーが発行されます。タイトルは「彼女。 百合小説アンソロジー」。
2022年3月17日発売予定です。