「五つ数えれば三日月が」李琴峰

あらすじ

台湾人の妤梅(よばい)は、日本へ留学していたころに実桜(みお)と出会い、好意を抱きます。しかし、卒業と就職を機にすれ違うように離れ離れに。5年後、妤梅は日本で実桜と久しぶりに再会しますが……。

みどころ

台湾と日本の、女性同士の恋を描く作品。第161回の芥川賞候補作として話題となりました。書籍としえては2019年に発売。

なお作者の李琴峰は日本語・中国語の翻訳者さんとしても活動されているようです。そのため、作中でも日本と中国(台湾)の両方の文化に対する深い造詣が伺えます。百合だけでなく、このあたりの着眼点もかなり魅力的です。

なお2022年現在、文庫版などは出ていないようです。読むにはハードカバーの本か、電子書籍版を購読することになります。

妤梅と実桜

妤梅は学生時代から女の子を好きだったと明言されています。主人公ということで、心情の動きが丁寧に描写されています。

一方、実桜のほうは女の子が好きかどうかは不明。少なくとも、現在は男性と結婚しています。今となっては、告白をしたところで上手く可能性は決して高いとはいえません。

数年ぶりの再会にて、妤梅は実桜に想いを伝えるか。その葛藤がみどころです。作中たびたび描写される台湾の文化や、漢詩が挿入される点も他には見られない個性となっています。

セイナイト

本書に同時に収録されている短編「セイナイト」も女性同士の恋を描いています。やはり日本と台湾のお話で、台湾人の月柔(ユエロー)、日本人の絵舞(えま)が主人公。すでに交際している最中であったり、表題作とはシチュエーションが微妙に違っているのがポイントです。両想いなのもみどころですね。

一応物語の舞台は写生会ですが、主人公である月柔のモノローグや回想によるパートが多くなっています。月柔、絵舞ともに同性への恋愛感情を自覚したエピソードなども描かれます。

「五つ数えれば三日月が」同様に、日本と台湾の文化に関する記述が独特の雰囲気を放っています。なかなか他では見られない作風ですね。これも2作に共通する点ですが、ストーリー上の具体的な出来事よりも主人公のモノローグや回想に重きが置かれている印象です。このあたりは、小説という媒体を最大限に生かした作品となっていると思います。

日本と台湾の文化の違いを描いた作品という点からもなかなか興味深い作品です。